9話『恩讐の村人よ…美しき故郷を取り戻せ!!』 動画
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http://www.youtube.com/watch?v=GGyaQsNb458
黛
「今後も、様々な手段で皆さんに懐柔してくると思われます」
「気を引き締めてください…」
「あなたを原告団から排除しようとは思いません」
「これからも、皆さんを引っ張っていって下さい…」
村民
「あのーー」
黛
「はいっ？」
村民
「私は、和解でいいかなっと思うんだけど…」
黛
「はっ？」
村民
「ね、あなた…」
「うん、そうだね…」
黛
「待って下さい」
「センバ科学は、皆さんを騙そうとしたんですよ」
村民
「騙すなんて言い方しちゃー、センバ化学さん、かわいそうですよ」
村民
「私たちも娘にね」
「『裁判なんてやめた方がいいんじゃないか？』って、言われているのよ」
「２０００万あれば、みんなで別けても、一人頭１００万近くにはなる」
「私たちには、分相応なんじゃないかな〜」
黛
「公害訴訟なんですよ」
「もっともらって当然なんですっ」
村民
「そんなにあったって…」
「ねーー」
「私たちが望んでいたのは、センバ科学の誠意なんです」
「今回、それがよーく感じられました」
「そう…」
「絆を…、再確認できたもんね」
「金がすべてじゃーないんですよ」
「そうだ、そうだ」
パチパチ…（拍手）
「そうそう…」
パチパチ…（拍手）
古美門
「素晴らしーい」
「皆さんのお考えに、感服いたしました」
「さすが、ふれあいと絆の里だ」
「それではそのように、手続きしましょう…」
「マユズミ君、後は頼んだ」
「さよーなら」
黛
「先生、これでいいんですか？」
古美門
「いいんだよー」
黛
「でも…」
古美門
「彼らがいいと言っているんだから〜」
「ですよねえ、みなさん…？」
村民
「ええ…」
「この世には金よりも大事なものがありますから…」
「なっ？」
「そうだ、そうだ…」
古美門
「見たまえー」
「彼らの満足そうな、この表情を…」
「ズワイガニ食べ放題ツアーの、帰りのバスの中そのものじゃーないか〜」
「マイズミ君、よく覚えておきたまえ」
「これがこの国の、”なれ合い”という文化の根深さだ」
「人間は長い年月飼い慣らされると」
「かくもダニのような生き物になるのだよ」
村民
「なにー」
「俺たちの事を言っているのか？」
古美門
「ほかに誰かいますかー？」
「自覚すらないとは、ホントに羨ましい」
「コケにされているのも気付かないまま、墓に入れるなんて、幸せな人生だ」
村民
「あんたちょっと、ひどいんじゃないか？」
古美門
「申し訳ありません、最初に申し上げたとおり」
「皆さんのような惨めな老人どもが、大っ嫌いなもんでして…」
村民
「おい、若僧」
「お前なんなんだ？」
「お前そんなに偉いのか？」
「そうよ」
「目上の人を敬うって事がないの？」
「私たちは君の倍は生きているんだ」
古美門
「倍も生きていらっしゃるのに、ご自分の事もわかっていらっしゃらないようなので」
「教えて差し上げているんです」
「いいですかー」
「皆さんは国に見捨てられた民」
「棄民なんです」
「国の発展の為には、年金をむさぼるだけの老人なんて、無価値ですから」
「ちりとりで集めて、はじっこに寄せて」
「ヨーカンを食わせて、黙らせているんです」
「大企業に寄生する、心優しいダニ…」
「それが皆さんだ」
黛
「先生もう、やめてください」
村民
「テメーだって、ダニに寄生している、バイ菌じゃないか」
「私たちのなにが気に入らないの？」
古美門
「かつてこの地は…」
「一面に桑畑が広がっていたそうですよ」
「どの家でも蚕を飼っていたからだ」
「それはそれは美しい、絹を紡いだそうです」
「それをたたえて人々は、いつしかこの地を絹美と呼ぶようになりました」
「養蚕業が衰退してからは、稲作に転じました」
「日本酒に適した素晴らしい米を作ったそうですが、政府の農地改革によって、それも衰退した…」
「その後はこれと言った産業もなく、過疎化の一途をたどりました」
「市町村合併を繰り返し、補助金でしのぎました」
「五年前に化学工場がやってきましたねー」
「反対運動をしてみたら、お小遣いがもらえた…」
「多くは農業すら放棄した…」
「ふれあいセンターなどと言う、中身のない立派な箱物も建ててもらえたー」
「使いもしない光ファイバーも引いてもらえたー」
「ありがたいですね〜」
「絹美という古臭い名前を捨てたら、『南モンブラン市』というファッショナブルな名前になりました」
「なんて、ナウでヤングで、トレンディーなんでしょう」
「そして今…」
「土を汚され、水を汚され、病におかされ」
「この土地にも、もはや住めない可能性だってあるけれど…」
「でも、商品券もくれたし、誠意も絆も感じられた」
「ありがたいことです」
「本当に良かった良かった」
「これで土地も水も蘇るんでしょう！」
「病気も治るんでしょう！」
「工場は汚染物質を垂れ流し続けるけれど、きっともう問題は起こらないのでしょう…！」
「だって、絆があるから…！」
村民
「くわぁーーーー」
黛
「落ち着いてください」
「先生…」
「離れてください」
村民
「放せーー」
「てめーなんか、てめーなんか」
「ぶっ殺してーーー」
「ショウジの気持ちは、もっともだ〜」
「そうよ」
「どうしてそんなひどい事が言えるの？」
「あんたは悪魔よ」
「あんたなんかに、俺たちの苦しみがわかってたまるかー」
「俺たちだってあんたが言ったことくらい、イヤと言うほどわかっている」
「みんな、悔しくて悔しくて仕方ねーんだ…」
「だけど…、必死で気持ちを押し殺して、納得しようとしてるんじゃねえか」
古美門
「なぜ？」
村民
「なぜ…？」
古美門
「ゴミくず扱いされているのをわかっているのに」
「なぜ納得しようとしているんです？」
村民
「俺たちはもう年寄りなんだ」
古美門
「年寄りだからなんなんですか？」
村民
「具合が悪いのにみんな頑張って…」
古美門
「だからなんだってんだー」
「だから、いたわって欲しいんですか？」
「だから、慰めて欲しいんですか？」
「だから、優しくされたらすぐ嬉しくなってしまうんですか？」
「先人達に申し訳ないとは…」
「子々孫々に恥ずかしいと思わないんですか？」
「なにが南モンブランだ」
「絹美村は本物のモンブランよりはるかに美しいと、どうして思わないんですか？」
「だれにも責任を取らせず、見たくない物を見ず」
「みんな仲良しで暮らしていけば楽でしょう」
「しかし、もし…」
「誇りある生き方を取り戻したいのなら」
「見たくない現実を見なければならない」
「深い傷を追う覚悟で、前に進まなければならない」
「戦うと言う事はそういうことだ」
「愚痴なら墓場で言えばいい」
「金がすべてではない？」
「金なんですよ！」
「あなた方が相手に一矢報い、意気地を見せつける方法は」
「奪われた物と、踏みにじられた尊厳にふさわしい、対価を勝ち取る事だけなんだ」
「それ以外にないんだ！」
「ニシキノハルオさん」
「あなたは元郵便局長」
「幾度となく閉鎖されそうになった村の郵便局を、最後まで守り抜いた！」
「守口三郎さんは小学校の校長先生」
「村にいた子ども達は、みんなあなたの教え子だ」
「奥さんのヒサコさんは、街のデパートの化粧品売り場で、月間売上の記録の保持者」
「ゴウダジョウジさんは、実に１００ヘクタールもの田畑を開梱した！」
「カワタサトコさんと御主人は」
「田んぼをやりながら日雇いの仕事を、いくつもいくつも掛け持った」
「トミタヤスヒロさんは商店街の会長」
「毎年祭りを盛り上げて、あのクリスタルキングを呼んだ事もある」
「イタクラハツエさんは女だてらにクレーン車を動かし」
「６人の子どもを育て上げた」
「敗戦のどん底から、この国の再販英気を築き上げたあなた方なら」
「その魂をきっとどこかに残してる…」
「はずだと、期待した、私が愚かでした…」
「いですか〜、二度と老後の暇つぶしに、私を巻き込まないで頂きたい」
「心優しいダニどおし、おだやかに傷をなめ合いながら」
「穏やかに健やかに」
「どーぞ、くたばっていってくださいっ」
「それでは皆さんっ、さようならっ！」